キズパワーパッドを貼って良い傷と貼ってダメな傷を皮膚科専門医が解説
「予期せずつまずいてできてしまった傷」や、「カップラーメンを作ろうと思ったときにお湯をこぼしてやけどしてしまった」など、思いがけない場面で傷を負うことがあります。
傷を作ってしまうのは一瞬のことですが、その後の手当ては意外と手間と時間がかかるものです。さらに、「傷跡が深く残ってしまうのではないか」という不安も付きまといます。
1)キズパワーパッドとは
今回は、傷ができたときに、すぐに対応できる方法についてお伝えしていきます。これは傷跡が残るか否かを左右する重要なポイントとなります。
私も傷の手当てによく使っているのですが、「キズパワーパッド」「クイックパッド」「治す力」といった製品があります。これらはいずれも、薄いオレンジ色のゲル状の「ハイドロコロイド」という成分を使用しています。
今回は「ハイドロコロイドという成分で傷を治す」というのがメインのお話になります。
病院でも傷の治療や、手術の後などでよく使用していたものなのですが、それがあるときドラッグストアでも販売されるようになりました。
いまではドラッグストアやコンビニエンスストアなど、どこにでもおかれているくらい、「傷といったらまずこれを使おう!」と思えるような良い治療薬になります。
しかし、実は使用する際にとても大事なポイントがあります。貼ると良い傷と、貼ると逆に傷が悪化し、傷自体がどんどん深くなってしまう傷があるのです。そこを見極める力を皆さんにつけていただけたらと思います。
外来で火傷した患者さまを診ていたときに、何人もの患者さまがキズパワーパッドを貼って来院され、「どうしてもっと早く病院に来てくれなかったのだろう…」と思うことが多々ありました。
キズパワーパッドさえ貼れば「なんでも万能に治る」と思っている方は注意です。注意書きを見ると、使用して良いケースと使用してはいけないケースが、明記されています。とても良い素材なだけに、使い方を間違えるのは本当にもったいないです。
2)傷を綺麗に治すポイント
最初に、傷を綺麗に治すための、ポイントをお伝えしていきます。
最近、傷の治療では「ウェットドレッシング」という方法が基本となっています。ウェット = 湿った状態」で「ドレッシング = 覆う」というのが傷の治療の基本です。
かつては傷を乾燥させ、かさぶたを作ることで治癒を促すと考えられていましたが、そのような乾燥による治療法は、すでに20〜30年前の古い方法となっています。
傷を乾かして治す方法は、確かに傷は治るのですが、綺麗には治らないのです。凹んだ傷跡や、傷口がひきつれたりなど、いわゆる傷跡が残る可能性が高い治療が乾かして治す治療方法です。
一般的に乾燥させる治療方法だと、傷は1週間程度で治ります。それに対して、ウェットドレッシングという湿った状態で治す治療は、乾燥させて傷を治す方法よりも、傷が治るまで3〜4日から長いと1週間くらい余計にかかります。
治るまでは少し時間がかかってしまいますが、傷跡が残りにくいという大きな利点があるため、湿った状態で治す方法は本当に優れた治療法です。
3)キズパワーパッドを貼って良い傷
では、キズパワーパッドは、どんな傷に使うと効果的なのでしょうか?「平で、浅くて、皮が剥けている」状態の傷に使うと、とても効果的です。
「平で浅くてちょっと皮が剥けている傷」の代表で、1番イメージしやすいのは靴擦れです。靴擦れは平らで浅くてちょっと皮が剥けてるという傷です。すぐにキズパワーパッドを使って良い傷をまとめましたのでおさえておいてください。
②家の中でぶつけて皮が剥けた程度の傷
③やけどでもお湯がかかって赤くなってる程度のもの。皮も剥けていない、水ぶくれにもなっていない、赤くなって少しヒリヒリするという状態であればキズパワーパッドをすぐに貼って大丈夫です。
④最後に、擦り傷の場合は、擦り傷自体にバイ菌がついていると治りが悪くなります。
石鹸をつけてしっかりと流水で洗い、バイ菌をしっかり洗い流してからキズパワーパッドを貼ってください。
4)すぐにキズパワーパッドを貼ってはいけない傷
次に、キズパワーパッドを貼ってはいけない4つの傷のタイプをご説明していきます。
外で転んだときは、どんなバイ菌が傷から入っているかわからないです。バイ菌だけでなく、砂利やゴミなど、傷に何かが巻き込まれて皮膚の中に異物が入っている可能性があります。こういった傷をキズパワーパッドで覆うのはとても危険なため、やめてください。
②動物に噛まれた傷
動物に噛まれた傷は、石鹸をつけて流水で洗ったから大丈夫とはならないのです。いくら綺麗に洗ったとしても、「動物に噛まれる」ということは、鋭い歯でガブリと噛まれるため、深い傷になっていることが多いです。
また、傷が深いことに加えて、動物の口の中にはいろいろな雑菌がいるため、深いところにバイ菌が入っている状態です。 傷口にバイ菌が入っている状態でキズパワーパッドを貼ることは、感染を悪化させる恐れがあり、大変危険ですので、絶対に避けてください。
③傷ができて何日も経過したもの
傷は時間が経ってくると、黄緑色のドロドロした膿が出る場合があります。 このような傷にも絶対に貼らないでください。
透明感がなく、どろっとしている傷に蓋をしてしまうと、蓋をした中でどんどんバイ菌が広がり、そのせいで皮膚が溶けて傷が広がってしまうという恐ろしい状態になりますのでやめてください。
④湯たんぽでできた傷
意外と思われる方もいるかもしれませんが、4つ目は湯たんぽでできたやけどです。湯たんぽでできたやけどは、パッと見た感じは「少しやけどしたかな?」くらいでそこまでに気にならず、「浅いやけどかな?」と思う方が多いかと思います。
しかし、湯たんぽによるやけどは思っているよりも深刻な症状になっていることが多いです。深いやけどをキズパワーパッドで覆うと、内部でどうなってるかが見えなくなります。
湯たんぽでのやけどの場合は、傷がどのくらい深いのか、どのような経過になっていくのか、しっかり見極める必要があるため、キズパワーパッドを使用しないでください。
深い傷にいきなり蓋をしてしまうのは危険なので、抗生物質を飲みながら傷の治りを観察し、丁度いいくらいまで治ってきてから初めてキズパワーパッドを使うようにしてください。
すぐにキズパワーパッドを使用して良い傷と、絶対に使ってはいけない傷を説明しましたが、「実際の傷の種類や状態は、この2パターンに限らない」と思われる方もいるかと思います。
5)その他の傷
お湯をかけて赤くなっているだけの傷ならキズパワーパッドを貼って良いです。しかし、湯たんぽによるやけどなら貼ってはダメですよとお伝えしました。
では、それ以外のやけどはどうでしょうか?それがその他の傷に含まれるものです。
やけどで言うと、「水ぶくれができて、水ぶくれが破れました」という状態であった場合に、「すぐキズパワーパッド貼ってもいいのか?」気になるところでしょう。この場合は、いまからお伝えする3つのポイントの全てをクリアした場合にのみ、キズパワーパッドを貼って良いです。
1つでもクリアできないポイントがあったときは、貼ってはいけません。
②ドロドロと濁っている膿は出ていないですか?
③透明なつゆのような浸出液は少ないですか?
この3つを全てクリアしている場合はキズパワーパッドを貼ってOKです。1つでもクリアしていない場合は、キズパワーパッドは貼らないでください。
クリアしていない場合は、
②2日経ったら、血や膿が出ていないか、浸出液が多くないかを確認し、まだ浸出液が多い場合は、さらに2日間洗ってワセリン塗って、絆創膏を貼ることを繰り返してください。
③処置から4日経過したら、もう1度確認してください。出血がないか、膿が出てないか、浸出液も多くないか、全てOKとなったらキズパワーパッドを貼っていい時期になります。
この3つをクリアしたときというのは、最初にお話しした「平で浅くて、薄く皮が剥けた状態」に近づいているので、キズパワーパッドを貼って大事にしておくと綺麗に治っていきます。キズパワーパッドはとても良い素材で、病院でも火傷や手術の後でも重宝している、最適な素材です。
キズパワーパッドを正しく使って傷を綺麗に治そう
今回お伝えした情報を知っておくと、傷ができた際にすばやく対応できて、適切なケアをスタートできるでしょう。すると、傷が綺麗に治ります。
キズパワーパッドは、ぜひ常備しておくと良いのではないかなと思います。
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